コートールド・ギャラリー(Courtauld Gallery)は、英国ロンドンのウェストミンスター地区にある美術館です。厳密には、ロンドン大学附属のコートールド美術研究所(Courtauld Institute of Art)の美術館であり、サマセット・ハウス内に設けられています。
この美術館は、比較的小規模ながらも、印象派や後期印象派のコレクションが非常に質が高いことで知られています。1932年に実業家のサミュエル・コートールドのコレクションを元に設立されました。コートールドは印象派・後期印象派を中心に収集していたため、その作品群が多く所蔵されています。
美術館はサマセット・ハウスの中庭に位置しており、その歴史的な建築物と組み合わさった美術館の雰囲気も鑑賞の一部となっています。また、サマセット・ハウスの中庭では冬季にはアイススケートを楽しむこともできます。
作品名 | フォリー=ベルジェールのバー |
作者 | エドゥアール・マネ |
制作年代 | 1882年 |
寸法 | 92 cm × 130 cm |
エドゥアール・マネの「フォリー=ベルジェールのバー」は、1882年に制作された作品で、彼の最晩年の傑作とされています。この絵画は、パリの華やかな社交場である「フォリー・ベルジェール」のバーを描いています。
この絵画の中心に描かれているのは、バーメイドで、彼女の後ろには鏡があり、そこにはミュージックホールの様子が反映されています。この絵画を見ると、バーメイドの虚ろな表情が印象的で、その背後にある騒がしいバーとの対比が強調されています。
また、この絵画は現実をそのまま描いているように見えますが、鏡に映る像やバーメイドの位置などに違和感を覚えるかもしれません。これはマネが現実をそのまま描くつもりはなく、視覚的な錯覚を利用して観る人の視点を操作し、中心的な女性に意識を集中させる効果を狙った結果です。
さらに、「フォリー・ベルジェールのバー」は当時批判の多かったマネの作品の中では珍しく好評でした。マネが生涯で追い求めていたものが2つありました。1つは尊敬する画家ベラスケスが得意とした、人物が浮かび上がるように描く肖像の表現です。もう1つは従来聖書や神話に限定されていたモチーフに現実を生きる人々を持ち込むことでした。「フォリー・ベルジェールのバー」ではこの2つに見事に成功し、まさにマネの集大成とも言える傑作になりました。
作品名 | 桟敷席 |
作者 | ピエール=オーギュスト・ルノワール |
制作年代 | 1874年 |
寸法 | 80 cm × 63.5 cm |
ピエール=オーギュスト・ルノワールの「桟敷席」は、1874年に制作された作品で、第1回印象派展に出品された6点の作品の中のひとつでした。この絵画は、劇場の桟敷席に座るファッショナブルなカップルが描かれています。
パリにおける劇場は、産業化の急速な発展とともに広まり、都市の文化活動の中心地となりました。劇場における女性達は鑑賞者であるとともに、自身が注目の対象でもありました。ルノワールは、劇場が当時の人々の社交場であり、劇の鑑賞よりも自分を他の人々に見せつけるための場だったことを示しています。
後方に座る男性のモデルは、ルノワールの弟エドモンで、ジャーナリストと絵画の批評を行なっていました。視線はステージ上の劇には向いておらず、上の席の誰かをオペラグラス越しに眺めています。
女性はオペラグラスを下ろし、周囲の観客の目を意識しています。そう、彼女は見られていることに気付いているのです。男性は見て、女性は見られる、この男女の対比は現代でも理解しやすいです。
作品名 | キューピッドの石膏像のある静物 |
作者 | ポール・セザンヌ |
制作年代 | 1894年頃 |
寸法 | 70.6 × 50.3 cm |
ポール・セザンヌの「キューピッドの石膏像のある静物」は、1895年に制作された作品で、彼が静物画を本格的に描き出すのは1870年代の後半以降です。この作品は、キューピッドの石膏像と果物が描かれています。
この絵画では、床、立板、手前の台がそれぞれ直線的に描かれているのに対して、キューピッドや果物は曲線的に描かれています。直線と曲線との対比を、歪んだ空間との関係で強調しています。
画面の右上には、しゃがんだ男の肖像の下半身が描かれています。キューピッドと言い、このしゃがんだ男と言い、セザンヌはバロック風の動きのある石膏像と動きのない生物とを対比させることで生まれる効果も楽しんでいるようです。