プラド美術館(Museo del Prado)は、スペインのマドリードにある美術館で、歴代のスペイン王家のコレクションを中心に幅広いヨーロッパ絵画を展示する世界有数の美術館です。そのコレクションは数万点、展示されている作品だけでも数千点に及びます。
プラド美術館は、ルーブル美術館やエルミタージュ美術館、メトロポリタン美術館にも肩を並べる世界的に名高い美術館であり、エル・グレコやベラスケス、ゴヤなどのスペイン絵画はもちろん、ティツィアーノやティントレットなどのイタリア絵画、ボスをはじめとしたフランドル派の絵画コレクションも充実しており、世界中の人々を魅了しています。
作品名 | ラス・メニーナス |
作者 | ディエゴ・ベラスケス |
制作年代 | 1656年 |
寸法 | 318 × 276 cm |
スペインの王宮で描かれたものです。王女マルガリータやその周りの人々が、絵の中にいるかのようにリアルに描かれています。画家ベラスケス自身も、左端に立っています。彼は絵筆とパレットを持ち、大きなキャンヴァスに向かっています。
このキャンヴァスには何が描かれているのでしょうか。奥の壁にある鏡を見ると、そこには国王フェリペ4世と王妃マリアーナの姿が映っています。彼らは絵の外から、娘や画家を見ています。つまり、彼らは私たち観賞者と同じ位置にいるのです。
私たちは、この絵を見ることで、350年前の王宮の一場面に参加しているような気分になります。
この絵はベラスケスが60歳の時に描いた最高傑作です。彼は生涯で約120点の油絵を残しましたが、この絵はその中でも最も評価が高く、多くの人々がこの絵に魅了されました。この絵は王室の公式な肖像画ですが、それだけではありません。この絵は何を表現しているのか、どんな意味を持っているのか、それは今もなお謎です。
作品名 | カルロス4世とその家族 |
作者 | フランシスコ・デ・ゴヤ |
制作年代 | 1800年 |
寸法 | 280×336cm |
カルロス4世は18世紀末から19世紀初めにかけてスペインを治めた国王です。
彼は画家ゴヤを宮廷画家として雇いました。
ゴヤはカルロス4世とその家族の肖像画を描きました。これはその一つです。
この絵ではカルロス4世とその妻マリア・ルイ王妃を中心に、14人の人物が描かれています。
彼らは豪華な衣装や装飾品を身につけていますが、表情や姿勢はあまり堂々としていません。ゴヤは彼らを正直に描こうとしたのでしょうか。
画面の左奥には、ゴヤ自身がキャンヴァスの裏に立っています。
彼はベラスケスの『ラス・メニーナス』を意識して、自分も絵の中に入れたのです。
作品名 | 無原罪の御宿り |
作者 | バルトロメ・エステバン・ムリーリョ |
制作年代 | 1670~80年頃 |
寸法 | 222×118p |
ムリーリョは、新大陸への独占貿易港として活況を極めたセビーリャで活 躍し、おもに修道院のために制作をしました。
17世紀、聖母マリアへの信仰が盛んになると、マリアもキリスト同様に神の子であり、生まれながらにして原 罪を免れているという「無原罪のお宿り」の思想が起こる。
この思想はスベイン、とくにセビーリャで盛んで、 ムリーリョをはじめスルバラン、エル・グレコ、ベラスケスなど多くの画家が、 同じ主題で作品を残している。
作品名 | 快楽の園 |
作者 | ヒエロニムス・ボス |
制作年代 | 1510年~15年頃 |
寸法 | 220 cm × 389 cm |
200人を超える裸の男女が野原で、森で、池で貪る官能的な快感。その両側には、アダムとイヴが住む楽園と、地獄の苦しみが独創的に描かれている。
『快楽の園』は、毛織物産業で繁栄したネーデルラント(現オランダとベルギー)の画家ボッスの最高傑作である。中央画面に描かれたさまざまなイメージは、ローマ教会が定めた、怠惰、傲慢など七つの大罪の一つ淫欲を示す。
1500年は、キリスト教の千年紀の真ん中に当たり、この頃は終末論がひそかに囁かれた不安な時代だった。聖職者は堕落し、来世の幸せよりも現世の快楽に走る者も現れた。信心深いカトリック信者だったボスは、そんな世相への警告を込めて”偽りの楽園”を描いたのだ。
この時代はすでに、この世は愚かな大衆の寄せ集めであると思っていたボスは、60歳頃のこの作品で、自分の世界観を大胆に展開した。
迷信や伝統的な価値観が力を持っていた時代において、ボスが卓越した想像力で描いた『快楽の園』。その細やかに描かれた人物や動物、美しい色彩は、現代人の心をも魅了する。
作品名 | 羊飼いの礼拝 |
作者 | エル・グレコ |
制作年代 | 1612~1614年 |
寸法 | 319 cm × 180 cm |
エル・グレコの『羊飼いの礼拝』は、1612年から1614年頃に描かれた新約聖書主題の作品で、ベツレヘムで誕生したイエス・キリストを目にするために、羊飼いたちが訪れた場面を描いています。
画面全体が画家の筆によるものとされ、神の子イエスが降誕した夜、ベツレヘム郊外の貧しい羊飼いのところへ大天使が降り救世主が生まれたことを告げられた後、急いでベツレヘムに向かい厩の飼葉桶に眠る降誕して間もない聖子イエスを礼拝するキリスト教美術における代表的な図像のひとつ≪羊飼いの礼拝≫で、特に晩年期のエル・グレコ様式に顕著に示される特徴、輝度の大きい光彩表現による激しい明暗対比や、極端に縦へ引き伸ばされた人体プロポーション、原色に近い強烈な色彩感覚などによって、現実世界を超越した超自然的な事象として、本場面を極めて象徴的に表現しています。
また、「羊飼いの礼拝」はエル・グレコが好んで取り上げたテーマであり、彼はヴェネチア時代から晩年に至るまで、繰り返し描いてきました。本作は晩年の成熟期に描かれたものであり、エル・グレコの同一テーマによる宗教画の傑作とみなされています。
作品名 | 十字架降架 |
作者 | ロヒール・ファン・デル・ウェイデン |
制作年代 | 1435年頃 |
寸法 | 220 cm × 262 cm |
十字架から降ろされたキリストの遺体を抱えている二人の男性はアリマタヤのヨセフとニコデモであると考えられています。この絵画の制作年度が1435年ごろと推測されている根拠のひとつは、作風にあります。また、作者のファン・デル・ウェイデンがこの時期に富と名声を獲得しており、それらはこの作品がきっかけとなってもたらされたものと考えられています。
『十字架降架』はファン・デル・ウェイデンが世界的な評価を得ようと意識して描いた大作であり、依頼主であるルーヴェンの弓射手ギルドがノートルダム・フオーリ・レ・ムーラ礼拝堂に献納することにちなんで、キリストの身体はクロスボウを模った「T」の形で描かれています。
この作品は、キリストの磔刑を描いたフランドル絵画の中で最も影響力のあった作品として、美術史家から高い評価を受けています。この作品が完成してから200年間にわたって、何回も模写され、大規模な絵画の手本とされてきたことがその証拠です。
キリストの死に対する人々の悲しみと衝撃が、感情的な表現と細やかな空間表現によって見事に描かれている作品です。