エルミタージュ美術館は、ロシアのサンクトペテルブルクにある国立美術館で、世界有数の大美術館です。この美術館は、考古学資料から20世紀の美術まで、すでに記録された美術品だけで約270万点を収蔵しています。
エルミタージュ美術館は、5つの建物から成り立っています:冬の宮殿、小エルミタージュ、大エルミタージュ(旧エルミタージュ)、エルミタージュ劇場、新エルミタージュ。
これらの建物はかつて皇帝が住んでいたもので、その豪華な内装は今も当時の姿を留めています。
1764年にエカチェリーナ2世がドイツの画商ゴツコフスキーが売り出した美術品を買い取ったことが、エルミタージュ・コレクションの始まりとされています。
作品名 | ダンス |
作者 | アンリ・マティス |
制作年代 | 1910年 |
寸法 | 260 × 391cm |
マティスは「自分の感情を色に置き換えようとした」と言っています。
彼は20世紀の近代主義の先駆者であり、フォーヴィスムという画風を生み出しました。
フォーヴィスムとは、色彩の純粋な表現力を追求する画風で、1905年にパリで開かれたサロン・ドートンヌという展覧会で初めて披露されました。
この展覧会では、マティスやドラン、ヴラマンクなどの若い画家たちが、強烈な色彩と奔放な筆致で描いた作品を展示しました。
評論家から「野獣たち」と呼ばれた彼らは、現実を写すのではなく、色そのものの力を表現しようとしました。
これが近代絵画における色彩の革命の始まりでした。
マティスの才能に目をつけたのは、ロシアの富豪で美術品収集家のシチューキンでした。
彼は1909年にマティスに自宅の階段周りに飾る作品を依頼しました。
マティスは「1階には丘の上で踊る人々を。2階には音楽を奏でる人々を」と考えました。
そして1年後に完成したのが『ダンス』と『音楽』という2つの対作品です。
この作品では、深い青や鮮やかな緑が空や大地を表し、力強い赤色が裸体の人々を表しています。
横3m91cm、縦2m60pという大きなキャンヴァスに、3色だけで構成された色彩が、伸びやかな曲線で美しい構図を作り出しています。
この作品でマティスはフォーヴィスム時代に追求してきた色彩表現をさらに高めました。
しかし1917年にロシア革命が起こり、シチューキンのコレクションは国家に没収されてしまいました。
その後1948年にエルミタージュ美術館に移されたこの作品は、華やかな宮殿の中で生命力あふれる『ダンス』を見せてくれます。
この作品は、近代絵画の歴史を切り開いたマティス40代の代表作です。
作品名 | タヒチの牧歌 |
作者 | ポール・ゴーギャン |
制作年代 | 1892年 |
寸法 | 87.5×113.7cm |
ゴーギャンの作品「タヒチの牧歌」は、1892年に描かれたものです。
彼は文明から離れた自然豊かなタヒチに憧れて旅立ちましたが、そこで見たものは彼の夢とは違っていました。
この絵は、現実に目にした風景ではなく、彼の心の中に描いた“理想郷”を表現しています。
画面には神秘的な力が満ちており、マオリの伝説に登場する月の女神ヒナが死者を蘇らせるという物語を思わせます。
作品名 | 女優ジャンヌ・サマリーの肖像 |
作者 | ピエール=オーギュスト・ルノワール |
制作年代 | 1878年 |
寸法 | 174 × 101・5cm |
ルノワールは、1878年に「女優ジャンヌ・サマリーの肖像」を描きました。
彼は、出版社主シャルパンティエ夫人のサロンで知り合ったサマリーに魅了され、彼女の美しさと若さを何度も画布に収めました。
この絵では、白いドレスが暖色の背景から際立っており、サマリーの妖艶な笑顔と優雅な姿勢が印象的です。
作品名 | ブノアの聖母 |
作者 | レオナルド・ダ・ヴィンチ |
制作年代 | 1478年 |
寸法 | 49.5 cm × 33 cm |
レオナルド・ダ・ヴィンチの『ブノアの聖母』は、1478年に制作された作品で、現在はサンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館が所蔵しています。この作品は、聖母マリアと幼子イエスを描いており、『花と聖母子』とも呼ばれています。
この作品は、アンドレア・デル・ヴェロッキオのもとで徒弟修業を積んでいたレオナルドが、画家として独り立ちして最初に描いた作品の可能性があります。大英博物館には本作のための予備習作が2点収蔵されています。
この絵画では、マリアが幼子イエスを抱いている様子が描かれています。背景の描写が少なく、二人の表情やポーズが特徴的です。イエスがマリアの膝の上に座っている様子は、母親と子供の愛情を表現しています。
また、レオナルドが視覚理論を追求していたことが分かる特徴的な描写も見られます。当時の考えでは人間の目からは、もっとも重要なものを視野の中心にとらえる光が発せられるとされていました。『ブノアの聖母』では、マリアに抱かれた幼児キリストは、母マリアの手によって視線を花に導かれています。
この作品はレオナルドの絵画の中でも、もっとも有名な構成の作品の一つであり、ルネサンス期の若き画家たちに幾度となく模倣されました。例えば、ラファエロの『カーネーションの聖母』(1506年 - 1507年頃)も、『ブノアの聖母』の影響を受けた作品であるとされています。
作品名 | フローラに扮したサスキア |
作者 | レンブラント・ファン・レイン |
制作年代 | 1634年 |
寸法 | 125 cm × 101 cm |
レンブラント・ファン・レインが1634年に制作した『フローラに扮したサスキア』は、彼の妻であったサスキア・ファン・オイレンブルフをモデルにしています。この作品は、春の女神フローラに扮したサスキアを描いており、花飾りの冠をかぶり、花で飾った笏を右手に持っています。
サスキアは左手で胸元の衣装を軽く添えており、どこかあらぬ方向を見て微笑んでいます。彼女の表情からは新婚の満足感が溢れているように見えます。
この作品はレンブラントとサスキアが結婚した1634年に制作されたもので、若い妻サスキアに対する画家の熱狂的な愛を証明しています。レンブラントは彼女を豊かな色彩で取り囲むことで女性らしい魅力を強調しており、若い妻の姿を詩的な肖像画の中でできうる限り美しく飾りたいという、彼自身の素朴ではあるが強い思いを表現しています。
ポーズをとるサスキアの自信なさ気で臆病な仕草と、豪華な刺繍の衣装や宝飾品とのコントラストは絵画に特別な魅力を与えています。また、花冠と杖の新鮮で明るい花々は絵画の全体的な冷たい色彩に楽しい調子をもたらしています。
作品名 | ユディト |
作者 | ジョルジョーネ |
制作年代 | 1504年頃 |
寸法 | 144 cm × 66.5 cm |
ジョルジョーネの『ユディト』は、1504年に制作された作品で、旧約聖書外典のユディト書に登場する未亡人ユディトが、酔いつぶれたアッシリアの将軍ホロフェルネスの首を切り落とした様子を描いています。この作品は、16世紀に板に描かれたものを19世紀にカンバスに移植したもので、現在はエルミタージュ美術館が所蔵しています。
この絵画では、あらわな足でホロフェルネスの首を踏みつけているユディトの姿が描かれています。その姿は、全盛を誇る共和国ヴェネツィアの自由と独立の象徴とも見えます。
ジョルジョーネは盛期ルネサンス・ヴェネツィア派の画家で、彼が残した作品は多くありませんが、色彩豊かで詩的な風景描写や抒情的で人物と風景が調和した作品が得意だったとされています。『嵐 テンペスタ La Tempesta』は最初の風景画ともいわれています。
また、ジョルジョーネの現存する作品は非常に少なく、間違いなくジョルジョーネの作品であると専門家が認めている作品は数点しかありません。その中でも『ユディト』は間違いなくジョルジョーネの作品であると認められている数少ない絵画です。
作品名 | リュートを弾く若者 |
作者 | ミケランジェロ・メリジ・ダ・カラヴァッジオ |
制作年代 | 1595年頃 |
寸法 | 94 cm × 119 cm |
カラヴァッジオの『リュートを弾く若者』は、1590年頃に制作された作品で、物憂げな眼差しを向ける美しい若者が描かれています。この作品はカラヴァッジオの初期の代表作として知られています。
この絵画では、リュートを爪弾く若者が描かれています。その若者は女性的な雰囲気を感じさせ、そのモデルとなったのは、カラヴァッジオと一緒にデル・モンテ邸に寄宿していたスペイン人、ペドロ・モントーヤだとされています。
卓越した構図によって描かれるリュートや、若者の奏でる楽器と指先の繊細な表現は、若きカラヴァッジオの早熟な才能が示されています。またリュートとは、中世から17世紀にかけて欧州で広く用いられた撥弦楽器のひとつです。
この作品はローマに到着して間もないカラヴァッジオの青年期(1590年代)の作風を反映しており、青年(又は少年)を思わせる若々しい男子に、病的にも思える虚実な表情が大きな特徴のひとつとされています。